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大阪高等裁判所 昭和29年(ラ)63号 決定

抗告人 森一夫

右代理人弁護士 松山与三吉

相手方 森一美

森美子

森不二雄

森広子

森厚子

右美子、不二雄、広子、厚子法定代理人

親権者母 森礼子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は「横浜在住の森三郎は相手方等の亡父一郎の叔父又同人の妻ナツは相手方等の親権者母である森礼子の実母に当り相手方等とは最も親密なる関係にあるところ、相手方等とその祖父森六郎及び叔父の抗告人との間における本件紛争について何等円満解決に尽力しないのみならず、相手方等の亡父一郎がその生前右森三郎と共同事業をしこの利益金三百万円乃至二百五十万円を折半することになつていたから、右利益金の半額その他手形金等時価数億円に達する債権を有していたのであつて右森三郎もその内金として相手方等の母礼子に一郎の死後合計三十三万円を交付している事実があり、且つ毎月二万円程度の送金をしており、相手方等においてはその生活上抗告人に対し本件生活費請求申立をすべき必要又は急迫の状態が生じていないから、先ず右森三郎に対してその債権を明かにせずその請求の手数を尽さない本件申立は失当であつて却下せらるべきである。又本件当事者は互に近親者でありながら、この数年間に十三件に及ぶ紛争を重ねているのであつて、抗告代理人が原審においてその円満解決に努力し僅か七日間にしてその一半の解決を一応成立せしめたが前記森三郎の参集なきため妥結に至らなかつたのであるから、原審裁判所はこれに協力して本件の進行を停止すべきであるに拘らず、これをなさず、即ち右の場合和解調停不成立とは云い得ないのであつて実質上継続中と見るべく、従つて原審の手続は無効であり原審判は違憲違法であるのみならず、西健康学教行乃至西裁判学の本全より論ずるも甚しく不当であるから、原審判を破棄し相手方の請求を棄却するとの裁判を求める」と云うのである。

よつて一件記録を精査するのに、相手方等の親権者母である森礼子は森六郎の長男一郎の妻又抗告人は右一郎の実弟であつて相手方等の叔父に当るところ、この一郎が昭和二十一年十二月○○日死亡したため相手方等は祖父六郎の扶養を受けていたが、その後右六郎が礼子に対して悪感情を抱き昭和二十二年五月以後は相手方等の生活費を支給せず、已むなく相手方等より調停の申立をしたが不成立に終つたため、京都家庭裁判所において右六郎に対し相手方等の生活費として毎月一万五千円を支給すべき旨を命ずる審判をなし、更に大阪高等裁判所により同人の抗告を棄却する旨の決定がなされて同審判は確定した。しかし右六郎はなお支給しないため相手方等において同人に対し強制執行をしたが無資産として執行不能に終つた経過を知ることができる。

そして原審判は、相手方等が通学中であつてその所有貸家より取得する家賃金一ヶ月数千円の外には別に収入もなく自活し得ないため、抗告人を法律上の扶養義務者と認定した上、相手方等の需要並に抗告人の資力その他一切の事情を考慮し、昭和二十八年十二月より相手方等が成年に達し自活し得る迄毎月一万二千円宛を生活費として支給すべきを相当と判断したこと明かである。

抗告代理人は、相手方等の亡父一郎はその生前森三郎に対し多額の債権を有し且つ親権者母の礼子がその後同人より毎月二万円程度の送金を受けており、本件申立についてはその生活上何等必要又は急迫の状態にない旨主張するけれども、原審における森三郎原審並に当審における森礼子審訊の各結果によれば、亡一郎が右森三郎に対し抗告人主張の如き債権を有していた事実は首肯できず且つ同人よりの送金は礼子の懇請による恩恵に過ぎず不安定なものであつて、しかも現在相手方等は自活し得ない状況にあることを窺い得べく、当審における大村四郎審訊の結果及び抗告代理人提出の全疏明書類によつてもかかる債権の存在は明確でないから、相手方等において現在困窮している以上、その債権請求の手続をなすのでなければ抗告人に対して本件申立ができない筋合のものではなく、相手方等が必要にして急迫の状態にありとして抗告人に対しその生活費の支給を命じた原審判には何等の失当も認められない。

又本件当事者が互に近親者でありながら本件の如き紛争を重ねることは好ましからざるところであつて、もとより円満解決すべきであること抗告代理人所論の通りであるけれども、双方間に感情の疎隔があつて到底急速に協議調わない状況にあるから、現在困窮せる相手方等のため先ず抗告人より原審判認定の如き生活費を支給しその不足分は前記森三郎より援助すべく、原審においては当事者間に結局円満解決が成立し得なかつたこと一件記録に徴し明かであるから、これを打切つてなされた原審の手続並に原審判には何等抗告人主張の如き違憲違法は存しない。抗告代理人はその信奉する西式医学より立論し縷々数千万言を以て原審判を攻撃するが、その非難は当らないから採用できない。

よつて原審判は相当であつて本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきものとし、費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り決定する。

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